当社によくあるご相談で、「Webサイトを任せていたWeb制作会社解散してしまった」「制作をお願いしていたフリーランスと突然連絡がつかなくなってしまった」ので何とかして欲しいといった内容がよくあります。
特にここ数年で増えてきているように感じます。
引き継ぎを行ってくれれば良いのですが、相談を受けた時点ですでに制作会社やフリーランスと連絡がつかないといったケースが多いです。
ご相談いただいて時点で、仕様書などのドキュメントやFTPなどのサーバ接続情報も何も持っておらず、サーバからデータも引き上げられないような状況の場合もかなりあります。
制作した当事者不在の中での引き継ぎは難航する場合も多く、中にはどこの制作会社も引き受けてくれないようなケースもあります。
制作を始める前の見積もり段階ではなかなかそこまで頭が回りませんが、万が一の時のために保険として用意しておきたいことを書いてみたいと思います。
複雑なシステムやサービスだともっと用意しておくべきこともありますが、こんなことに気を付けておいた方が良いよ、という感じでざっくりとまとめてみました。
制作に関わるファイルをすべて納品物として納めてもらう。
基本的に、Web制作会社では制作したWebサイトをサーバ上に公開した時点で納品となるところが多いです。制作会社によっては納品ファイルとして、制作に関わるファイルをまとめるのは別費用となるとことも多いですが、成果物についてはきちんと手元に回収しておくことが大切です。
では、納品物に含んでおきたいものをリストアップします。
HTMLファイル、プログラムファイル一式
これはWebサーバ上にアップロードされている、HTMLファイル、画像ファイル、CSSファイル、プログラムファイルなど一式です。制作会社のサーバを使って公開している場合は、契約が切れた時点でサイトのデータそのものがなくなってしまう可能性もあります。少なくとも公開した当初のデータ一式はきちんと引き上げておくと良いでしょう。
しかしながら、Webサイトは日々更新されていくものですので、公開当初のデータとは差異が生じてしまいます。出来れば自社でも担当者はFTPで定期的にファイルを引き上げられるような状況を作っておくと安心です。
デザインやイラスト、図版などのデータ一式
PSDデータ、AIデータ、PINGデータなどのデザイン素材一式です。デザインデータは有料になる場合が多いですが、制作会社の引き継ぎ以外にも自社で少し色を変えたいなどの時には必要になるので、多少費用がかかっても買い取っておいて損はありません。
デザインデータがないと、元のデザインをトレースして新たに作り直しなどかなりの手間がかかり、その分制作会社に依頼した際のコストもかかります。
デザインで使用しているフォントまで引き継ぐのは難しいですが、デザインデータさえあれば制作会社の方で何とかしてくれるケースが多いです。(大体デザインで使用する基本的なフォントは制作会社で持っているので)
ただし、納品されたデザインデータやイラストなどを他のサイトやパンフレットなどに流用したりすると、著作権に引っかかる恐れがありますので、事前に確認しておくことをお勧めします。
データベース仕様書などのシステム仕様書一式
Webサイトを引き継ぐ際に一番難しいのがCMSなどのシステムを含んでいる場合です。システムを引き継ぐのは制作会社であっても非常に難しく、仕様書のあるなしで対応できるかどうかがかなり変わってきます。
実際にはプログラムを解析する必要があるのですが、データベース仕様書などのドキュメントがあるとないのでは解析にかかる時間がかなり変わります。複雑なシステムを解読するのは非常に時間がかかりますので、その分コストもかかりますし、場合によっては作り直すくらいのコストがかかったりもします。
ですので、システム仕様書はなるべく細かく用意してもらうことが大切です。
特にデータベース仕様書やシステムの概要や処理フローはシステムを解析するうえで重要なので、必ずドキュメントとしてまとめて納品してもらいましょう。
ドキュメント制作には費用が別途かかることが多いですが、こちらも多少コストはかかっても入手しておいて損はありません。(というか必須です)
Webサーバやドメインは自社で契約。
Webサイトを公開するWebサーバの契約や、ドメインの契約は必ず自社で契約するのが無難です。Web制作会社経由で契約するとマージンなどを取られて費用が上がるのと、制作会社との契約が切れた時点で、新たにサーバを契約してWebサイトを移行する必要があります。
特にリース契約などで、制作会社の取得しているドメインで運用したりしているサイトは、契約が切れた時点でなくなってしまう恐れもあります。
制作会社で管理しているサーバには発注者であってもアクセスしてデータを取り出すことは不可能な場合も多く、会社が倒産してしまったがために二度とデータが手に入らなくなる可能性もゼロではありません。
自社でWebサーバやドメインを契約しておけば、少なくとも制作会社との契約が切れた時点でWebサイトがなくなるといった心配はありません。
もし、そんな時間はないし契約とかよく分からない、ということであれば制作会社にサポートしてもらって、契約名義と支払いを自社にするよう契約してもらうことをお勧めします。
サポートで多少費用がかかったとしても、長期的に考えると安心です。
長期間の制作では予め中間納品物を提出してもらうことも検討。
長期に渡る制作の場合、フェーズを分けるなどして中間納品をしてもらうことも安全策です。ただし、中間納品してもらうには、中間での精算も条件になるかと思いますので、きちんと事前に制作会社と話し合って条件を決めておくべきです。
ご相談いただく中には、フリーランスと契約をして制作途中で連絡がつかなくなった、突然制作辞退の連絡がきて制作が続行不可能になりそう、などいった内容も多くあります。
制作途中のデータをきちんと回収しておけば、他の制作会社やフリーランスの方に依頼することも出来ますが、データを回収できないとゼロに戻ってしまいます。
すべてを疑っていては制作の依頼なんか出来ませんが、制作はそれなりのコストがかかりますので、色々な保険をかけておくことをお勧めします。
著作権などは事前に確認。
開発したプログラムについては開発した制作会社に著作権がある場合もあります。勝手に他社にシステムを引き継いで改造したりできない、プログラムを引き渡してくれない、といったこともよくあるそうです。
システムについては長く使うものですので、開発した会社との契約がなくなっても、メンテナンスは絶対に必要になります。
少なくとも、万が一の場合には他社で引き継いで改修などを行ってもよいか?についてはきちんと確認のうえ書面にでも残しておくと良いでしょう。
デザインやイラストなども同様です。
手元にデータがあっても勝手に使えない場合も多いですので、事前によく確認しておきましょう。
制作会社によっては他社の制作した受け付けていない。
制作会社との契約が解消されてしまったから、他の制作会社にそのままメンテナンスを依頼しようとしても、制作会社によっては引き受けてくれません。なぜなら、他社の制作したWebサイトやシステムを改修するのは、制作会社にとっても新しい不具合を生んだりするリスクもあるので、できればやりたくない仕事だからです。
自社のポリシーとして部分的な仕事は引き受けていない制作会社も多くあります。
制作会社の替えはいくらでも効く、と思われている方もいらっしゃるかも知れませんが、リニューアルならまだしもメンテナンスや改修となると引き受け手がなかなかいないことも頭に入れておきましょう。
会社によっては、最初からわざわざ複数社に部分的に作業を依頼して担保を取っているところもあると聞いたことがあります。
制作が続行不可能になるということは、それなりに起こりえることなのでしょう。
制作会社と友好な関係を作っておくことが大切。
当社でも、倒産してしまったWeb制作会社との引き継ぎを行うことがあるのですが、すでに会社は倒産しているけど、担当者が会社とは関係なく引き継ぎに協力してくださっていることもよくあります。おそらく個人的な善意での無償対応だと思います。
善意で対応してもらうには、それなりに関係性が良くなくては引き受けてくれません。
ですので、日頃から制作会社との関係は良好に保っておくことが大切です。
倒産以外でも、無茶な要求を繰り返して制作会社の方から契約を辞退されてしまうケースもあるようです。私が制作会社の人間だから言っているわけではなく、実際にどこの制作会社にも断られて引き受け手がいない案件もあるようで、制作の内容や費用感などは制作会社と無理のない範囲で合意のうえ進めたいところです。
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Web制作会社が倒産するというのも毎月のように聞く話ではありません。
稀な話ではあります。
しかし、今の制作会社の対応がいまいちなどの理由で、制作会社の入れ替えを検討しているという相談は多くあります。そういった場合でも引き継ぎは発生しますし、引き継ぎにはそれなりの資料が必要です。
制作会社を替えるにも、替えられた会社は良い気はしないでしょうし、引き継ぎをしてくれるかどうかも分かりません。制作は出来合いの物を購入するわけではないので、何があるか分かりません。
それを踏まえたうえで事前に備えておくべきことについてまとめてみました。