先日告知させていただきました私の拙著「Web業界 受注契約の教科書」が本日11/1発売となりました。
発売日ということでもう少しだけ本書の紹介をさせていただきます。
先日は概要を紹介させていただきましたので、今回は私の執筆担当である第一部の目次と執筆の意図などについて少し触れさせていただきます。
Amazonのほうには目次が載っていなかったので、そもそもどういった内容なのか分からないと思います。
目次は購入判断の材料にもなると思いますので、私の執筆した第1部のみですが、目次を掲載させていただきます。
Web業界 受注契約の教科書 Textbook for Business Contracts in the Web Industry
第1章 契約成立・作業開始時のトラブル
・取引先企業から提示された契約内容をよく確認せず鵜呑みにして契約してしまった。
・企画提案から携わったが、発注者が制作段階で急に「制作会社を変える」と言い出した。
・発注書にサインしたのに「案件がなくなった」と言われ、請求にも応じてもらえなかった。
・企業間コラボをしようと話を持ちかけられデザインまで作ったのに、連絡が取れなくなってしまった。
第2章 作業内容変更・業務外作業のトラブル
・制作段階で想定していなかった修正や追加作業が後付けされた。
・無報酬で予定外の深夜、休日の対応を迫られた。
・スマートフォンサイト制作で実機での閲覧について納得してもらえない。
・サイトリニューアルに伴い制作会社変更のための引継ぎ作業を要求された。
コラム:交渉しないのは自分たちの制作価値を下げてしまうこと
第3章 検査・瑕疵のトラブル
・クライアントの確認が長引き、「サイトを公開するまで請求は受けられない」と言われた。
・「デザインに納得できないので、制作費は支払えない」と言われた。
・不具合、修正が重なり、納品完了後にクライアントのチェックにかかった工数分の費用を請求された。
・外部サービスを利用したWebサイトで、外部サービスの不具合について制作会社に瑕疵を問われた。
コラム:「ホームページの作成や修正は簡単、すぐできる」という意識から要望がエスカレートする。
・納品後かなり期間が経ってから不具合対応を迫られた。
第4章 代金のトラブル
・支払時期、振込手数料の負担に認識違いがあった。
・納品後に請求額の減額をしつこく交渉された。
・制作料金が入金予定日になっても入金されない。
コラム:お値引きをする際の条件。
第5章 著作権のトラブル
・案件で開発したプログラムを流用されてしまった。
・「他社が作成したデータからサイトを作成して欲しい」と言われた。
コラム:会社の中で「著作権に対する意識」を共有しておく。
第6章 秘密保持のトラブル
・自社のスタッフがTwitterやFacebookなどで制作中の情報を漏らしてしまった。
・広告代理店から依頼されたWebサイトを自社サイトに実績として掲載していたら、取り下げを要求された。
第7章 契約解消のトラブル
プロジェクトが頓挫したので、Webサーバーからデータを引き上げたい。
制作途中に一方的に契約を打ち切られ、制作物に対してしか費用を補償できないと言われた。
コラム:契約も大切ですが横のつながりや人情で仕事が続くのも事実です。
第8章 契約外のトラブル
・レンタルサーバーの障害で、紹介したWeb制作会社の対応責任を問われた。
・Webサイトを公開した1週間後に「検索エンジンにヒットしない」とクレームが入った。
コラム:不安なのはお互い様。スムーズな受託制作はコミュニケーションから。
タイトルと目次だけだと受注した際の単なるトラブルシューティングのように思われるかもしれませんが、内容としては実際の制作現場レベルでの見解と法的な解説でかなり現実的なお話になっています。
恐らく現在進行形、もしくは過去にまったく同じではないにしても類似したトラブルに遭遇したディレクターの方も多いと思います。
発注する側の立場でも参考になります。
この本ではフィクションではありますが、実際に起こりえるトラブル事例をみなさんが想像しやすいよう具体的な表現で紹介しています。基本的には受注側の視点に立って書かれてていますが、発注側になった際にも勉強になると思います。
第二部を読んでいただけるとよく分かるのですが、法的な解釈だときちんと取り決めしている中では発注者に分があることが多いです。
本書では挙げていませんが、例えば、
「納品間近に連絡が取れない。」
「緊急対応だったのに連絡が付かず自社で作業せざるを得なかった。」
「納期ギリギリで間に合わないと言われた。」
「言っていることと実際の制作物が全然異なる。」
「明らかに制作側の瑕疵なのに修正費用を毎回要求される。」
などなど発注する立場での「こんなはずではなかった、、」という思いはあると思います。
ゼロベースで制作するわけですので、「本当にやってくれるのか?」といったところを発注側も蓋を開けてみないと分からないというリスクはあります。
そういった際にきちんと連絡や納期などについて確約して契約しておくことも必要でしょうし、機密保持の面などから契約の際に今一度契約内容を見直すきっかけになってくれればと思っております。
契約もコミュニケーションのひとつ。
制作会社側からみたら「費用を払わないほうがいけない」「クライアントの無茶振り」「クライアントが悪い」という解釈になりがちです。ですが、藤井先生の第二部と第一部のトラブル事例を交互に読んでいただくと分かるのですが、制作現場の担当レベルでの確認不足、認識不足など制作会社の交渉や認識の甘さが露呈したうえでのトラブルが多く、きちんと契約をしていない制作側に落ち度があることも多いです。
我々Web制作業界は他の業種、不動産や飲食業などから見ればまだまだ浅い業界です。
それゆえに他の業種では信じられないほど契約など認識が甘い部分はあると思います。
特に受発注や入金関係についてはラフなゆえに事後トラブルが多く発生する傾向にもあります。
本書ではもう一度制作業界の方にも法的な見解含めて契約や発注、制作費というものに対して考え直す、意識し直す、きっかけになってくださればと思っています。
制作のデザインや仕様を決めるのと同じように契約もコミュニケーションのひとつだと思います。
でも、受託制作は面白い!
本書を読んでいくとトラブル事例を沢山挙げているので受託制作って面倒臭そうだな、と感じるかもしれません。恐らく全部読み終えると案件ひとつ終わったような感覚に包まれると思います。
実際に制作業界では「受託制作=きつい」「無茶な要望てんこ盛り」という嫌なイメージを持ってらっしゃる方もいらっしゃいます。
ですが、受託制作でもクライアントにほめられたり、頼んでよかったと言っていただけることはモノづくりの一員として一番のやりがいですし嬉しい部分です。
ゼロベースで制作できるのもサービス運用などとは違い作り手にとっては面白い作業です。
実際には法的には正しい!と言っても、実際にはお値引きしないといけない場合もありますし、条件を飲まないといけないことだってあります。
契約条件が合わないからやりません!を続けていっても会社として、ビジネスとしては成り立ちません。
それなりに世間から認められるデザインや制作実績があれば話は別ですが、フリーランスで独立したてなどですと現実問題厳しいでしょう。
この本では契約は契約ですが、自分なりのやり方ですが、現場レベルでの程よい交渉の仕方などについても触れていますので、そういった視点からも読んで参考にしていただけると幸いです。
クライアントと直接交渉して向き合うのも受託制作の面白さの一部です。
ただ、交渉するうえで法的な後ろ盾があれば気持ち的にもゆとりを持って交渉できるかと思います。
本書を読んでくださって法的なことも理解したうえで交渉がスムーズにいくようになればうれしいです。
Web制作業界の一人でも多くの方が手に取っていただければと思います。